1月に読んだ本を今さら。
顔に取り憑かれた脳
著者は中野珠実先生。
目次と序言をチラッと眺めて『これは好みの本やろなぁ』と思い読んだもの。
内容はおもに脳の機能や我々ヒトの認知に関する話題で,ひとことで言えば『脳科学』をカジュアルに学べる本。
↓目次。
話題の中にはまだ解明されていないものもあったが,大脳皮質等の脳のそれぞれの部位のはたらき,小規模実験から大規模実験,専門家の研究結果のメタ分析──等々を実生活と結びつけて紹介されており,とても読みやすかった。
たとえば『人が知っている顔の数はおよそ5000人。1000人~10000人ほどの個人差がある』など。
私はこの仕事をしておりながら人の顔を覚えるのが苦手で,だいたい人のことはエピソードで記憶しており,同時期に出会った複数名を混同してしまうこともある。
いろいろな子どもたちを見てきたけれど,ひさしぶりに見かけても顔ではなく喋り方や仕草まで含めないとなかなか当人だとは気づかないこともしばしば。
そのほか『ドーパミンは,報酬に伴う快楽ではなく,期待していた報酬と実際に得られた報酬の間の違い=「報酬の予測誤差」を伝えている物質である』といったものも面白かった。
こちらは以前も他の書籍などで読んではいたものの,
想定内の報酬しか見込まれないと,ドーパミンはだんだん分泌されなくなります。
すると,あらゆることに対して,興味や関心が薄れ,モチベーションがあがらなくなってしまいます。
そして,より大きな報酬を求めて,依存している物質を乱用したり,のめり込んでいる行動にますます取り憑かれたりする行動パターンに陥ってしまうのです。
顔に取り憑かれた脳
脳科学の書籍では頻出の話題かもしれないが,動物を用いた実験を思い出す。
『ボタンを押すといつもエサが出てくるボタン』のあるオリに入れられた動物はエサが欲しいときにしかボタンを押さないが,『ボタンを押すとエサが出てきたり出てこなかったりするボタン』のあるオリに入れられた動物はしきりにボタンを押す──といったもの。
まさにギャンブルに振り回されるヒトの姿であろう。
近年であればソーシャルゲームなどによく見られるガチャがそれにあたるであろうか。
たとえ知識として分かっていても,ハマってしまえば脳の機能として抗えない快楽になるだろうことは想像に難くないので,私はこの手のものごとにはそもそも手を出さないようにしている。
ゲームが趣味ではあるものの,ゲーム中にこういったものが仕込まれているとちょっと気持ちが萎えてしまう。
ASDの話題も面白かった。
一方,自閉スペクトラム症の大人と子どもは,女の子の顔よりも,画面の下に出ていたテロップの文字(女の子の名前)をよく見ていました。このように,話者の顔に目がいかないのが自閉スペクトラム症の特徴なのです。
顔に取り憑かれた脳
私と対面で話をしたことのある人はお分かりかもしれないが,私も典型的なASDなので対話中にあまり相手の目を見ない。
現在の話題に深く関心をもって話していてもそんな感じが常である。
終盤のまとめ方も良かった。
コミュニケーションには非言語情報も大きな役割を果たしている。そして,言語情報と非言語情報が食い違うときは,非言語情報の方が強い影響を与える。
外面は常に自己の内面と深い関わりがあり,その内面は,外面の影響を受けて容易に変化する,可塑的で不安定なものである。また,いずれの外面も,他者の反応から自己の顔を想像するという点で,自己と他者の関係性からつくられる想像的共有物である。しかし,それがないと,私たちの自己は不安定になり,他者との関係も上手く機能しなくなる。つまり,「顔」は,私たちが社会で生きていくうえで,必要不可欠な通路なのである。
顔に取り憑かれた脳
とりとめもなくいろいろと書いてしまったが,脳の機能や我々ヒトが無意識に行ってしまうことなどを知識として知っておくことは今後の生き方についておおいに役立つもの。
社会的な資格や地位,財産を得るにはあまり役立たないかもしれないが,日々の過ごし方に活かせるものだろう。
(まぁ,私が前者への関心が薄いからこのような本ばかり読んでしまうのだが……。器用に生きられる人が羨ましい。)
脳科学の書籍については以前紹介した『進化しすぎた脳』もとても良かった。