いつ入塾すべきか

Posted on 2020年6月11日いつ入塾すべきか はコメントを受け付けていません

(画像は松江の堀川遊覧船。「屋根が降りてくる舟」として有名。)

突き詰めれば各家庭の事情次第ではあるけれど…。

入塾タイミング

結論から簡潔に述べると,「思い立ったとき」が入塾タイミングであると考えている。

塾側の人間である私が述べると,「『早めに来ていただいたほうが料金が取れる』という商業ベースの考え方が背景にあるからでは…」と思われるのは重々承知ではある。

しかし,それを抜きにしても,「思い立ったとき」であると考えている。

間に合わなかったこと

ちょっと長くなってしまうが,私の経験エピソードを。

数年昔の話ではあるのだが,6年生の指導をしていて記憶に残る経験を味わったことがある。

特定を避けるため,抽象的な表現にはなるのだが…。

6年生の春休み。

ある子が,体験がてら塾へやってきた。

「今まで塾へは通っていない」と聞いていたのだけれど,算数も国語も非常によくできるし,好奇心旺盛で,授業も興味津々でどんどん吸収してくれる。

塾内の子たちの学力と比べても,よくできる。

「この子なら第一志望校の合格圏へは余裕をもっていけるなぁ」と感じていたし,実際に保護者へもその旨をありのままに伝えた。

すると,「他の習い事にも時間を割きたいので,夏休みからお願いします」との返答。

私はこれを了承した。

その後,夏休みから予定通り入塾してくれたのだが…。

塾内の他の子たちと比較して,明らかに学力が低くなっていたのだ。

これは,「学力が下がった」のではなく,「塾内の子たちの学力の伸びのほうが大きかった」ということ。

「この状態では合格圏へはカスるかもしれないが,おそらく難しいだろう…」という状態に。

私はいつも忌憚の無い意見を述べるので,この旨も包み隠さず保護者に伝えた。

保護者も子どもも聡明な方だったからか,素直に受け入れ,「今の状態からやれるだけがんばってみる」という方向性に。

その後,受験までは相変わらず好奇心をもって能動的に学んでくれたし,どんどん学力も伸びた。

が,春から夏の数か月の間についた差は埋められない。

なぜなら,個人の学力がいくら伸びても,周囲の子たちの学力も伸びているからだ。

(そうでなかったら,それは塾としてマズイですよね…。)

結果的に,第一志望校への合格はできなかった。

が,受験指導が終わったあとには,「個人的にお礼をしたい」と提案され,いろいろとお話をさせていただりし,とても感謝された。

今思い出しても目頭が熱くなるお話だった。

中学受験はひとつの通過点であり,第一志望に合格できなかったときにも,子どもの意欲を削がず,終わったことに固執せず,前を向いてゆくことが大切なのだ…と実感するできごとだった。

私の中で,この件に関しては,いまだに一概に成功・失敗と言えず,「中学受験のみを考えれば失敗といえるが,受験勉強を通過点と考えるならば,失敗ではない」という結論だ。

もしムリヤリ「習い事をやめて受験勉強に専念しろ!」と言ったところで,この子にとっては「習い事を自分の意思に関わらずやめさせられた」という苦い経験となり,中学受験という通過点の中で深い傷を残しかねない。

ゆえに,春から通わせることが必ずしも正解とは言えないからだ。

ここで子どもの意思を尊重したからこそ,夏からの学習に身が入った可能性もある。

また,春~夏の数か月の間に,「塾に通っていた子」と「塾に通っていなかった子」で大きく差が付いたことから,「私の指導は,自分が思っている以上に,子どもたちを伸ばしていっているのだ」と実感できるできごとでもあった。

(中学受験指導って,ふわっとしたものなので,いくら「適切な指導」を心掛けていても,模試の成績などを見ても,子どもたちにどの程度影響を与えられているのか…を知るすべはあまりないのですよね。)

科学的に言えば,サンプル数1のできごとに過ぎないが,それでも私の心の中には深く刻まれており,ふとしたときにこの子のことを思い出す。

きっと,いつまでも振り返ることになるだろう。

習い事との兼ね合い

中学受験となれば,塾へ通う回数は飛躍的に多くなる。

だから,他の習い事との兼ね合いが難しいところだ。

いきなり整理するのは難しいから,前学年の段階から,じわじわと「○曜日に変更する予定」や「1年間お休みする予定」など,あらかじめ決めておき,親子で意思確認をしておく必要があるだろう。

塾によっては,年によって曜日を変更するところもあるので,できれば事前に尋ねておくのがオススメだ。

また,通う予定の塾が決まっているならば,一度顔を出しておくとより良い

塾のことを話すときに,実際に訪れた印象をもって話すのと,そうでないのとでは,特に子どもにとっては差が大きいし,話題にする回数が積み重なればなおさらだ

塾側は,新しい問い合わせともなれば,喜んで答えることだろう。

また,「中学受験の勉強」と「他の習い事」については,しっかり優先度を決め,「中学受験の勉強よりも他の習い事のほうが価値がある」と結論が出た場合は,ムリに中学受験の勉強をする必要は無いだろう。

早く入るメリット

中学受験に関しては,「第一志望校」が人それぞれである。

塾側としては,「現在のクラスの子たちが受験する学校」に徐々に特化していくことになるから,出口となる受験に対応した学習を取り入れることができる。

また,「勉強」とは言うものの,子どもたちの「思考回路」や「性質」を見抜きながらやらなければ,適切な声掛けは難しい。

だから,同じ状況に遭遇したときでも,長く通っている子であれば,一言二言で適切な方向に導きやすい。

解説についても,日の浅い子については「どこから解説すれば良いかな」と子どもにとってもムダな時間を取る必要があれば,長く通っている子たちについては「5月に○○の単元でやったやつだから,このあともう1回確認してみよっか」などの声かけと指導をすることができる。

また心の扱いについても,講師側は「この子はこの言い方だとヘソを曲げる可能性があるから,この表現にしよう」など考えることができるし,逆に子どものほうは「先生がこういう表現をするときは,怒っているわけではなくまたあのジョークだな」と反応することができる。

こういった部分は,外からはなかなか見えない部分であるし,保護者としては実際に体験することはできない。

だけど,私が大切にしていることの中には,こういった部分もあるのだ。

「早く入り過ぎた」ことで大きく困ることは無いだろうけれど,「遅すぎた」ら間に合わないので,「思い立ったとき」がベストと言える。

もし,「すでに遅いかな?」と感じたならば,過ぎた時間にやれたはずのことはもうどうしようもないから,現況と今後についての相談をしてみることが望ましいだろう。

どれだけ取り返せるか,そして今後の展望についてアドバイスが得られるはずだ。