より自分の学力に近い仲間が集まるクラスで学ぶこと。
このこと自体に異議はない。
だけど,上手く機能しているのだろうか?
上位クラス・下位クラス
結論を先に述べると,「学力別クラスには賛成だが,運営側が上手く運営できているかについては懐疑的」という立場だ。
そもそも「学力別クラス」は,「子ども一人一人が,学力的に,より自分に適したクラスで学習すること」を目的とするクラスであると考えている。
自分に適したクラスで学ぶことにより,同じ時間であってもより効果的に,効率よく学習することができるものだ。
下位クラスに所属することをネガティブに感じられる方もいらっしゃるのかもしれない。
だけど,人としての優劣を付けられているわけではないし,「どこに所属しているか」を周囲にひけらかすために所属しているわけでもない。
大切なのは,「何のために学習しているのか」だ。
目的と手段
「目的と手段が逆になっている」
よく見かける言葉だ。
学力別クラスで学ぶことの目的は何だろう。
こと中学入試の学習に限って述べるならば,「志望校合格を目指すため」だ。
そのために,「各個人に適した学力別クラスで学習する」といった手段を利用する。
だけど,この目的と手段を見失っている状況を見ることもたくさんある。
最上位クラスの最上位の子は,ここを誤ることは少ない。
より自分の学力に近い子たちが集まっているクラスで学べるため,感覚がインフレしてくれ,プラスの効果が大きい。
最上位クラスの下位の子は,クラス替えに怯える子がいる。
学習の目的も,「最上位クラスから移動させられないため」となることも。
こういった場合,カンニングなど,倫理を欠いた行為を用いてしまうことも。
中位クラスの子は,「上位クラスへ移動するため」に勉強する子が多いことがある。
「多いことがある」と書いたのは,塾の雰囲気,校舎の雰囲気,指導講師の方向性により,子どもたちの全体的な感覚も異なるからだ。
大人が「上位クラスへ移動するためにがんばれよ」「下位クラスへ移動しないようにがんばれよ」といった声掛けばかりをしていると,「上位クラスへ移動するのが良いこと」「今の目的は上位クラスへ移動すること」「下位クラスへ移動しないのが目的」という感覚が自然と身に付いてしまう。
結果,学力別クラスで自分に合った学習をするはずが,学力別クラスに振り回されるだけになってしまうことも。
下位クラスの子は,「上位クラスへの移動」を目的としている子もいるが,むしろ「さらに下位のクラスが無い」,すなわち「今と同じか今より上しかない」ためか,のびのびと学習できている子が多い。
最上位向けの難しすぎる内容も無く,「難しいこともあるけれど,これならなんとかできそうだ」という内容になることが多いため,ある意味「学力別クラス」の恩恵をいちばん受けているクラスかもしれない。
まとめると,最上位の子たち,下位クラスの子たちはのびのびと勉強しやすくなるが,上位クラスの中の下位層,そして中位クラスの子たちがいちばんピリピリし,目的を見失いやすいと考えている。
大切なのは,「自分の学力を上げること」が目的であり,クラスの移動が目的ではないということだ。
目的と手段を取り違えないために
最終的に目的と手段が逆になってしまうのは子ども本人だ。
が,上述の通り,そもそも「大人側」がそういう方向に導いている場合も多い。
大切なのは,「どの環境に身を置けば,より自分が成長できるのか?」だ。
「そうは言っても上位クラスのほうが合格者が多い」という声もわかるが,それは上位クラスのほうがそもそも学力が高い子が集まっているのだから,そうなるのは当然だ。
「上位クラスだから合格した」というよりも,「上位クラスに居るだけの学力があった」という個人の問題なのだ。
話はズレるが,高校生の数学下位クラスを担当していたときのこと。
努力もするし,よくできる子だったが,「僕は2次試験で数学を使わないので,数学はずっと下位クラスで受けます」という子がいた。
その年度は下位クラスを指導するのは私だったので,大学入試までずっと指導することになった。
はじめは広島大学を目標としていたのだが,めきめき学力をつけ,最終的には前期名古屋大学,後期広島大学で出願し,前期の名古屋大学に合格していった。
こういった判断ができる子が少ないのは重々承知ではあるのだが,「上位クラス!」という看板でなく「自分の目的に合っている」という意味で 「この環境で勉強していきたい」と思えるところで学習していくのがベストだ。
(どこに所属していたか?なんていうのは,将来的には「大学名」くらいしか誰も気にかけないもの…。)
まとめ
学力別クラスは,子ども一人一人に合った環境で勉強できるという利点がある。
反面,目的が「志望校合格」ではなく,「上位クラスへの移動」「下位クラスに移動しない」になってしまい,何のために勉強しているのか…となってしまうことも。
「自分に合ったクラスで学習すること」は手段であり,目的ではない。
「この環境なら,どこよりも自分をのばすことができる!」という環境に身を置くのがベスト。
余談
ある先生から,こういった愚痴を聞いたことがある。
「保護者から『やっぱり下のクラスの先生だからうちの子の成績が上がらないんですかねぇ?』って言われたよ。まぁ保護者から見るとそうなるのも分かるんだけどねぇ。ツライよねぇ。」
その先生はとても思いやりのある先生で,尊敬する部分が多く,私が見習うことの多い先生だった。
下位クラスだけでなく,上位クラスでも中位クラスでも,どのクラスでも問題なく指導できる先生だった。
事実,「灘中合格を目指す!」だとか「東大理3絶対合格!」のような,全国的にもごく少数の最上位層をターゲットとする教育する講師でもなければ,塾内での上位クラス・下位クラスの指導について,どちらかしか対応できない講師はほとんどいないだろう。
運営上,上位クラスのほうがありがたがられ,下位クラスのほうが子どもや保護者から下に見られやすいというそれだけのことだ。
むしろ,学力下位の子のほうが,学力がのびない原因を特定するのが難しいことも多く,専門性が必要とされるように思う。
(「ノルマをこなす」とか「内申点を上げる」といった部分ではなく,純粋に「学力を上げる」のが難しいということ。)
私が初めて小学6年生上位クラスの指導をした年,結果が良かったのは本当に幸運だった。
おかげで結果が芳しくないところへどんどん投入されることになり異動が多くなったが,それでもそれぞれの地域の,それぞれの設定のクラスで指導していくことで,短時間で多くのことを吸収することができた。
そういった意味では,前職には感謝してもしきれない。