読んだ本シリーズ。今年も書かずに過ごしており忘れてしまいそう。
(失礼ながら,毎度オビの謳い文句職人には苦笑いである。フフッとなってしまう。)
広大附属福山中の国語
著作権の関係で,入試問題集を購入しても問題を確認できないもの。
「ともや塾」にそろえられている本を紹介。
今回は2023年度入試に出題されたもののうち,前半部。
『歩きながら考える』
著者はヤマザキマリ女史。
見たことある名前だな……?と思っていたら,マンガ『テルマエ・ロマエ』の作者様。
単行本が出版された頃はずいぶん話題になり,私も読んだ覚えがある。
古代ローマ人が日本のお風呂にタイムスリップするコメディだったなぁと振り返る。
↓そういえば阿部寛主演で映画化もされていた……。
さて,話を戻して。
タイトルは『歩きながら考える』となっているが,これ以前に出版された『たちどまって考える』の流れで付けたタイトルであろう。
内容は二宮金次郎的なものではない。
(そして『二宮金次郎』を並べ替えると『闇の木に老人』になるのも関係ない。)
『コロナ禍でいろいろなものが停滞した時期(たちどまって考える時期)からちょっと時が経った今』といった意が含まれていそうなエッセイである。
読んで感じた人物像はまさに『諦観』。
どのような方なのか全然存じ上げなかったのだが,読んでみると考え方の方向性が私と非常に近く,共感の嵐の上,学びが多い内容だった。
たとえば,家族について
家族だからと言って,何事も一律にする必然性は全く感じません。
一人でいることがデフォルト,という共通認識
と表現されていたりするのも頷くばかり。
家族は単なる共同体の最小単位かなぁという程度。
社会規範や文化は地理的要因や社会情勢によって変化するものであり,絶対ではないし,その思想を他者に押し付ける必要もなく,また他者の思想を自身の思想に上書きする必要もないと考えており,このあたりもおおかた一致している。
『知性と笑いのインタートリップ』の章ではさまざまな教養について触れられており,ずいぶん参考になるなぁと思いながら読んだ。
いちばんに『ドリフターズ』の話題が挙がっており,これも嬉しくなってしまった。
その他『審美眼』など日常使いできそうな語彙も豊富に用いられており,これも良かった。
ふだん私が自分から読む本では無かったが,この本に出会える良いきっかけとなった。
出題されたのは,P.34-47。
今回は略されたり,表現が変更されたりしているところがあまりに多くて驚いた。
エッセイであるがゆえに脱線が多いため,試験として適切になるよう調整したのだろう。
原文では『愛人』『絶倫カブトムシ』といった語も含まれており,これらは小学生には不適切である。
よくここから出題しようと決断したなぁと思う。
その他,『スパン』→『期間』等,なるべく注意書きが必要にならぬよう子どもに向けた配慮が伺える。
国語教育に携わり,子どもたちのほうを向いて指導をしておれば,『知らない語が一語でもあると理解が難しくなるし,それが二語三語と増えると……』ということはよく分かる。
『著作者人格権は大丈夫なのだろうか……』と心配してしまうが,学校教育・入試という特殊な場であるという大前提のなせるワザなのだろう。
(専門でないのであまりこの話題にツッコまないほうが良いか……。)
ともあれ,エッセイとはいえ抜き出された部分は今年も学校の性格が色濃く表れたものだったなぁと,そう感じる出題だった。