広大附属福山中の国語の出題2023-2

Posted on 2023年2月24日広大附属福山中の国語の出題2023-2 はコメントを受け付けていません

もうずいぶん昔のできごとのように感じる。

広大附属福山中の国語

著作権の関係で,入試問題集を購入しても問題を確認できないもの。

「ともや塾」にそろえられている本を紹介。

今回は2023年度入試に出題されたもののうち,後半部。

『科学はこのままでいいのかな』

著者は中村桂子女史。

受検会場で見かけた瞬間,『数年前に出題されていた著者だな』と思ったもの。

以前は2019年に『「ふつうのおんなの子」のちから』から『虫めづる姫君』の部分が出題されていた。

以前読んだものは『なんだかなぁ』という感想だったのだが,今回は果たして……。

中村桂子さんは,東大理学部を卒業し,理学博士でもある生命誌研究者である。

すなわち,私とは比べ物にならないほど学問の世界で生きている科学者である。

ゆえに,その科学者が書いた『科学はこのままでいいのかな』というタイトルの本,先述の本と比べて内容が気になる本でもあり,すぐに読み終えてしまった。

つまり,面白かった。

内容は『人間は生きものである』という当たり前のことがテーマとなっていたように読み取った。

歴史的な視点から,昔は人間と他の生き物は区別されていたこと。

『DNA』『ゲノム』研究から人間も単なる生き物に過ぎないと導き出されてきた過程。

機械論から生命論へ。

進歩ではなく進化で。

……私がここで述べるのも野暮であろうが,『そうそう』と頷きながら,生命誌研究の専門家の話を傾聴するばかりであった。

特に以下の部分は印象的だった。

現在の科学の方法は,自然界のすべてを説明できるものではないのに,科学だけが正しいと信じている人が多いのです。科学で解明できるところは解明し,そのデータを有効に活用することは大事で,科学を無視したり否定したりしてはなりません。けれども,自然界はとても複雑で現段階では正確な答えが出せないことが少なくありません。それだけではなく,科学で説明できないこともあるでしょう。

現代はSNSで自分の気持ちの良い場所にだけ居続けることができることもあり,さまざまなものごとが二極化していると感じている。

日常的に人と会話していて,『科学・科学技術・科学的根拠(エビデンス)を絶対視し,科学的でないものを否定する輩』『科学を毛嫌いし,科学を否定する輩』,これもそのうちのひとつだと思っていた。

本来,科学は単なる技術だけでなく,普遍的事実や客観的事実を共有したり,また主観に偏らずものごとを見るのにとても重要な役割を果たす。

逆に,科学では解明できない・現在はできていないものごとももちろんたくさんあり,科学的ではないからという理由でものごとを否定するのも短絡的である。

そう思っていたところに前述の文章を読んだので,深く頷くばかりだった。

話はそれるが,以下の部分も良かった。

「脱炭素社会」という言葉が,「人間は生きもの」ということを忘れて科学技術を進めている人たちの発想だということがここで確認できますね。

有機物の大部分は炭素でできていたり,呼吸により二酸化炭素を排出したりするものであるのに,「脱炭素」や「ゼロカーボン」という言葉が使われていること,強烈な皮肉か何かだと常々感じていたものである。

他にも学びの多い本であったが,紹介はこの程度に。

子どもたちにとっては難しい専門用語もあるかもしれないが,大局的に何が述べられているのかが読み取れればそれで良いだろう。

ところで。(←中村桂子さんの文章でしょっちゅう使われるのでオマージュ。)

出題されたのはP.75-81『便利はとてもよい……だろうか』まるまる1章分。

前半に出題されたヤマザキマリ女史の文章同様,『人も地球上に生きる生きもののうちの一種に過ぎない』といったことが書かれている,出題者の意図が多分に感じられる部分であった。

いずれも私個人としても支持したい考え方である。

個人的には,小学生の頃に読んだ『寄生獣』で学んだ視点である。