大学生のころ,某全国模試の採点のアルバイトに携わったことがある。
採点のアルバイト
「アルバイトが採点するの?」と思う方もいらっしゃるかもしれない。
全国の高校生数十万人が受ける母数の大きい模試,しかも記述問題ありで,模試直後の時期だけ仕事量が局所的に増える…。
こういった状況を俯瞰して見れば,短期で仕事を頼める人,しかも高校生向けの記述の採点ができる人,…を多数募集するならば,そこそこの学力のある大学生たちをアルバイトとして使うというのは当然の判断だろう。
内容
あまり細かいことはここには書けないけれど…。
研修はあるし,「数字の○は○と区別のつかない文字にならないように,こう書く」だとか,「○○の場合は○○へ」だとか,マニュアル的なものもしっかりしている。
採点基準についても,「○○が書かれていれば○点」「○○があれば○点減点」「○○の代わりに○○が書かれていても○点」とか,部分点についても細かく決められている。
だけど,「記述」の答案ともなれば,予想外の珍回答が出てくる。
「正しいか間違いか」という判断よりも,「この答案に部分点を入れて良いのかどうか」とか,「この字は○と読み取れば○点入るけど,□と読み取れば○点は入らない」とか,公正さが求められる場面の判断は難しいものもよくある。
そういったものは,アルバイトの中でもリーダー格の人の判断を仰いだりすることになる。
採点するだけでなくチェックもしっかりあるから,マニュアル上は上手くまわるし,実際多少のクレームはあれど,根幹の部分はなんとかなるのだ。
理念の共有と責任
アルバイトとして仕事をした場合に問題となるのが,企業の目指すものが理解されているのか?
何かあったときに責任はどうなるのか?
アルバイトに責任が無いのであれば,仕事に対する向き合い方も温度差が激しいのでは?
こういったところが問題となる。
大学生のアルバイトからすれば,「給与がもらえればOK」といった人も多いだろう。
もちろん言われたことはやるのだけれど,答案の向こうの生徒,保護者,学校の先生まで見えているのか…?
こういったところは,アルバイトの人自身が成熟していなければなかなか難しいし,成熟するころには採点のアルバイトなどをしない年齢になってくる。
悪意や贔屓
あってはならないことであるが,人が採点,人がチェックする以上,「悪意」や「贔屓」,それから「漏れ」があることは充分考え得る。
本番の入試ではなく単なる模擬試験であるから,こんなところで不正をはたらく動機はなかなか考えられないが,現実的に起こりうるかどうかでいえば,起こりうる。
大学入試共通テスト
そこで気になるのが,「大学入試共通テスト」だ。
とりあえず先延ばしにはなっている。
が,「記述式」のテストを「アルバイトに採点させる」といった旨が明らかになっている。
当然,採点者が増えれば増えるほど情報の漏洩の可能性はあがり,人数が多ければ多いほど,誰が情報を漏らしたかが分からないから「やってもバレないだろう」という意識になることが予想される。
また,情報の漏洩どころか答案を改竄したりすることも可能であるし,部分点などのさじ加減も周囲の数人が結託すれば可能となってしまう。
やはり,こういった「公正さ」については,人の手が入るよりも「任せられる部分は機械に任せる」ほうが保たれるだろう。
記述式の試験の目指すところは分かるし,理想はスバラシイものだ。
だけど,現場の人たち全員がその理想のとおりに動く人たちばかりだとは思えない。
これは,「悪い人がいる」とかそういったことを批判したいわけではない。
「起こりうる」ことを想定すれば,それに対して備えをするべきであり,それができないのなら現行のマーク式の試験のほうがよっぽど公正だろうということだ。
今,大学入試の情報に振り回されている中高生が不憫でならない。
本当に何事も「努力」「能力」「タイミング」の3つが揃わないとなかなかうまくいかないときはあるもので,「タイミング」については自分の力ではどうにもならないときはどうにもならないのだ。
まぁ,学生運動の時期に「東大の入試を中止する」といった,東大を目指していた子にとって,これ以上不幸なタイミングはないだろう…という「タイミング」もあったのだけれど…。
まとめ
記述式の問題については,いくら基準を作っても,どうしても採点者の「さじ加減」の入る余地がある。
50万人ともいわれる大学入試共通テストを記述式にするとなれば,大勢のアルバイトが採点せざるを得ないし,情報漏洩,不正の入る隙はいくらでもある。
採点結果が届く前に自己採点の点数で出願する大学を決めるわけであるが,そもそも自己採点を正しく行うことすら難しい。
結局,今出ている情報を見る限りは,機械に任せられるマーク式がいちばん公正な試験である。
(冬期講習中だからか,やっつけ仕事で思うに任せて徒然なるままに書いております…ご容赦ください。)